『Aquarius』 の雨宮教授と岬伊織の、その後
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― かりそめ ― 第十三話
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「君が好きだよ、伊織」
これはもしかしたら夢なのかもしれない。
「そのことに気付けたから、俺は潤の死を漸く受け入れることができたのかもしれないね」
これは僕の願いが見せた夢。
「もっと早くこの気持ちを伝えたかったけど、あの日、君を潤と重ねて抱いてしまった自分が赦せなくて、なかなか言い出せなかった」
だって、あんなに苦しかった花火の音までもが、心地良く僕の身体を包んでる。
「…… 先生……」
絞り出すように出した声は情けなく掠れてしまう。
『先生』と、そう声に載せて呼んでしまえば、この幸せな夢から、きっとあっと言う間に醒めてしまう、そんな気がした。
だって、いつだって幸せな時間は、儚くて短い。
「愛してる、伊織」
だけど教授は、柔らかな低い声で、僕の名前をぎこちなく呼んで、僕が一番欲しい言葉を、もう一度くれた。
「…… あ……」
何か言おうとしたけれど、胸が震えて上手く言葉にすることが出来なかった。
「こんな俺でも君は赦してくれるか?」
赦すなんて……、そんなこと……!
言葉に出来ない代わりに、僕は教授の首に腕を絡めて、唇を重ね合わせた。
―― 僕も、僕も先生が好き。先生を愛してる。
深く口付けを交わしながら、心の中で何度もその言葉を繰り返して。
お互いの熱い息が混じり合い、身体の奥に脈動を感じて、僕の中が嬉しさに震えた。
ずっと探していた足りない何か。
その何かに、餓えていた渇きが確かに満たされていくのを、僕は生まれて初めて感じていた。
一際大きな花火の音に、教授は唇を僅かに離して、「あ……」と声を漏らした。
僕の後ろへ移した教授の視線に釣られて肩越しに振り返ると、満月になる前の少し欠けた月の横に花火の大輪が広がっているのが見えた。
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(つづきます・・・)
ぽちっと↓
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