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2015年12月13日日曜日

R18BL短編『うそつき』あとがき


『うそつき』完結いたしました。
お付き合いありがとうございました。

あとがき、というほど、大した事も書けないのですが…(゚ー゚;
裏話を少し…。

この話を思いついたきっかけが、
今年の1月に、ある人にとてもショックな嘘をつかれたのが始まりでした(笑)
で、うそつきな男にふりまわされる話を書きたいなぁと思っていた時に、
ユニ○ロに買い物に行きまして…
なんだかとても可愛い男の子の店員さんがいて、、(゚ー゚;
洋服を見るふりをしながら、観察…いやいや、、!(´Д`;)
たぶん、バイトくんかなーと思うのですけど、
これがまたよく働く真面目な感じで。

そしたら、やたらと男前な年上の店員さんが、何かとその彼にちょっかいかけて(ちょっかいかどうかは、腐目線でしか見れないから、よく分からないですけどwたぶん作業の指示をしてたんだと思いますw)

もう、どう見てもCPにしか見えなくなってしまって!!

で、家に帰って、すごい勢いで書きはじめたのが、このお話でした。
そんなこんなで、私にしては短期間で書いて、あまり見直しもせずに、 ひっそりとサイトに上げていたのですが、
ツイッターでフォロワーさんから続編のリクなどいただいていて、
二人がこの後温泉に行くというお話を途中まで書いているのですが、筆が止まってしまったままでして(*v.v)。

もう今年も終わりに近づいてきたので、放置したままではいかん!と思い、
読み直したら、修正箇所が出るわ出るわで、、
続編を書く前に、どうしても書き直したくてブログで更新させていただきました≦(._.)≧ ペコ

余談ですが、、
作中に、「高岡」という西脇の同僚が出てきますが、
彼は、私が初めて書いた小説『出逢えた幸せ』の主人公、高岡直です。

直は出逢えた幸せの番外編『幸せのいろどり』のラストで、
ちょうどアパレルメーカーに就職していたので、引っ張り出してしまいました。


ということで、この後 温泉編の続きを書きたいと思っています。

いいかげんだけど、どこか憎めない男、西脇は、本当に千聖とうまくいくのでしょうか。
と、不安を残しつつ、
なんとかバレンタインまでには形にしたいなーと思っています。

その時は、またお付き合いいただけると嬉しいです!!

ありがとうございました。





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感想やご意見などいただけると嬉しいです。
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R18BL短編『うそつき』(28)【完結】

はじめて読む方は、こちらから。




(28)


 ―― そんな顔したって、もう騙されないぞ。

 俺は西脇さんに背を向けて、鍵穴に鍵を差し込んだ。

「帰ってください。」とだけ、振り絞るように声に出して、差し込んだ鍵を回すと、ガチャンと、鍵の開く音が、アパートの静かな廊下に響いた。


「…… ごめんな。」


 短い言葉と共に、頭の上に感じた掌の温度は、でもすぐに離れていく。


 ―― 何、謝ってんだよ。


 今、傍にあった気配が、足音と共にゆっくりと離れていくのが分かった。


 ―― なんだよ、また何も言わない気かよ。


 ドキドキと、心臓が煩い。分かってる…本当は俺、全部気が付いているんだ。いつも強引で、自分勝手で、嘘つきで。


 だけど……、


「―― 待てよ!」


 考えるよりも先に俺は振り向いて、階段を下りて行く嘘つきの背中を追いかけた。

 貴方は狡いよ。また何も言い訳もせずに行ってしまおうだなんて、許さないんだからな。

 それでカッコ付けてるつもりかよ、分かってんだから。

 高岡さんが言いにくそうにしていたのは、きっと二人が離婚したから。

 あの時の奥さんのお腹だって、妊娠しているように見せかけていただけで、それを見ても何も言わなかったのは、貴方も、奥さんの悲しい嘘を見抜いていたから。


 俺に言ったあの最後の言葉だって――


「―― うっわ!」


 階段を下りて行く嘘つきの背中に飛び付いて、バランスを崩して、数段二人で転げ落ちても。


「―― 痛ってー! 酷いなぁ、千聖は。」


 腕の中で、俺のことを庇いながら倒れたことも、ちゃんと分かってるんだからな。

 倒れた西脇さんの身体の上で、俺はその顔を両手で挟んで、唇を押し当てた。

 もうその唇が、優しい嘘を吐かないように……。

 驚いている顔がおもしろくて、俺は唇が僅かに触れるくらいの距離で、笑い声を漏らした。


 ――ああ、なんだか俺も言ってみたくなってきたな、あの言葉。


「――愛してる。」


 これは嘘なんかじゃないよ。俺の本心。

 さっきよりも、目を丸くして驚いている彼にもう一度口付けをして、あの言葉を繰り返した。


「愛してる…… 志芳。」



                                 
 ― うそつき ―(改稿版) end 

 2015/12/12





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2015年12月12日土曜日

R18BL短編『うそつき』(27)

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(27)



 バイトを終えて、帰宅する途中、ケーキ屋の前でバレンタインデーと書かれたポスターが目に入って、「…… ああ、俺、今日誕生日じゃん。」と思い出した。

 別に誕生日だからって、今年も何も変わらない。

 ケーキでも買って帰ろうかなと、ちょっとだけ思って店に入りかけたけど、やっぱりやめた。


 ―― 独りでケーキ食べたって、虚しいだけじゃないか。


 自嘲しながら、店の前を通り過ぎた。

 今夜は、底冷えがして、空からはチラチラと、雪が舞い降りていた。マフラーを口元まで引き上げて、アパートまでの道を急ぐ。早く、帰って熱い風呂に浸かりたい。

 薄灯りに照らされた階段を駆け上がり、踊り場の辺りで鞄の中に手を突っ込んで、部屋の鍵を探した。


「あれ…?どこに入れたっけ。」


 なかなか見つからない鍵を手探りで探しながら、階段を上がりきると、自分の部屋の前に誰かが座り込んでいる影が見えた。


「…… え?」


 最初は、酔っ払いか何か?と思ったんだけど、その人影は俺に気付いて立ち上がる。

 はっきり見えなかった顔が、ポーチライトに照らされる。

 その人は、手に旅行にでも行くような鞄を持っていて、にっこりと俺に微笑みかけて言った。


「誕生日おめでとう千聖。」


「な? なんで?」


 驚き過ぎて、声が裏返ってしまっている俺に、西脇さんは不思議そうな顔をする。


「なんでって、何そんな驚いてんの。誕生日に温泉に行くって約束しただろ?」


 迎えに来たよ。と、笑いながら、呆然としている俺の身体を抱き寄せる。

 ふわりと西脇さんの煙草の匂いが鼻腔を擽って、懐かしい想いが溢れ出してきそうになった。


 だけど、――『俺も、本気じゃないよ。』


 それと同時に、あの最後の言葉が頭に浮かんできて、力一杯腕を突っ張って、西脇さんから身体を離した。


「ちょっ、ちょっと、放してくださいっ!」


「何だよ? つれないなぁ、久し振りの抱擁なのに。」


「何言ってるんですか!もう俺と貴方はそんな関係じゃないでしょう?」


 俺の言葉に、西脇さんは何も返してこなくて、困ったように眉を下げた。






続きます。。




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2015年12月11日金曜日

R18BL短編『うそつき』(26)

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(26)



「あ、そう言えば、去年の催事の時にこの店に応援に来てた、西脇ってやつ、憶えてる?」


 忘れようと努力していた名前が、突然出て、心臓がドキリと跳ねた。


「…… はい。一緒に休憩に行きました。」


 俺がそう答えると、高岡さんは大きな目を更に大きくして、「そうそう!」と言って、話を続ける。


「あいつさ、去年の移動で、北陸に行ってたんだけど、戻ってくることになってさ。」


 ―― 北陸?


「へ、へえ。そうなんですか。」

 
 その時、お腹の大きかった奥さんの姿が頭を過ぎった。北陸へは、一緒に行ってたんだろうな。


「奥さん、赤ちゃん生まれたんですよね。」


 会話を繋げる為もあって、何気なくそう訊いただけなのに、高岡さんは、驚いたように目を丸くする。


「赤ちゃん?いいや? あいつ…… 子供はいないよ。なんで赤ちゃんが生まれたと思ったの?」


 ―― え?


「…… え…… なんか…… そんな事を訊いたような気がして……。」


 違う人と勘違いしてたかなーって、慌てて誤魔化した。


「そうだよね! 勘違いだろうね。」


 そう言った、高岡さんの表情に少し違和感を感じて、俺はつい訊いてしまっていた。


「北陸へは、単身赴任じゃないですよね? 奥さんも一緒に行ったんですか?」


「え…… いや……、」と、高岡さんは、困った顔をして言い淀む。


 どうしたんだろうと、思いながらも、もうそれ以上その話を続けたくなくて、俺は話題を変えた。

 赤ちゃんが生まれたという話は無いというのは、本当みたいで、妊娠の話も訊いてないみたいだった。

 あんなに目立つお腹をしていたし、高岡さんとは仲が良さそうだったのに。もしかして、また流産とかじゃないよねって、少し気にはなったけど。

 俺にはもう関係のないことだし、そのことについて、俺が気にするのもいけないことのような気がしていた。


       *




続きます。。



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2015年12月10日木曜日

R18BL短編『うそつき』(25)


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(25)


 *


 『今度来る時は、泊まるよ。』


 そんなことも言ったことがあったけど、ただの一度だって、俺の部屋に泊まったこともない。

 いつだって、自分の都合の良い時だけやってきて、食事の支度をして待っていた夜だって、

『晩飯、今日はいいや、腹減ってないし。』と、言って食べずに、でも、セックスはするんだ。そして、必ず奥さんの待つ家に帰って行った。


『じゃあ、土、日で、泊まりがけで何処か行こうか。』


『そうだな、温泉とか行かない?部屋に露天風呂があるところとか!』


 無理な約束ばかりいっぱいして、結局、貴方は一度も約束を守ってくれることはなかったね。


『愛してるよ、千聖。』


『お前といると、嫌なことなんて全部忘れる。』


『千聖は俺の癒やしだな。』


『お前は、俺のやり甲斐だ。』


 貴方の口から出る言葉は、全部うそだった。分かっていたのに、なんでこんなに胸が苦しいんだろう。

 貴方のことなんて、好きじゃなかったのに。恋人でも、愛人でもない、ただの…暇潰しだって、分かっていたのに。

 なんで、こんなに…… 涙が止まらないんだ。


      *


 俺はバイトだから、もうあの人に会うこともない。

 一緒に過ごした夜は、数えることが出来るくらい少ないのに、なかなか忘れることができなくて。

 あれから一年が過ぎたのに、まだ心の奥に西脇さんの存在が確かにあって、それでも忘れたふりをして、一生懸命に前を向いていた。

 そんなある日、西脇さんと同じ会社で、うちの店の営業担当だった高岡さんが、久しぶりに巡回に来た。

 去年の秋に自社ブランドのショップの担当になってから、俺のバイト先の店は他の人が担当するようになっていた。


「久しぶりだね、千聖くん。」


「本当ですね、高岡さん担当が変わったから、今年の周年祭の時もいなかったですしね。」


 自分でそう言って、去年のあの催事初日の光景が頭を過ぎってしまう。







続きます。。



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2015年12月9日水曜日

fc2ブログの凍結のこと。

私にしては珍しく(?)
ずっと休まずに続けてこれた『うそつき』
昨夜、とうとう更新出来ずじまいでした(*v.v)。

今、このブログの投稿画面を開いたら、何も書いていないページが白紙のまま下書き保存になってましたよ(笑)

というのも、昨日突然起きた、fc2の大量凍結騒ぎで、更新しようとしていたのに放置してしまったのでした(*v.v)。

うちは、7月からbloggerで更新するようになったので、
それほどの被害ではなかったのですが、

それでも旧ブログのfc2のアカウントは残していて、
そこにしか載せていない短いSSなどもあったし、
カテキョーツバメの漫画は、あちらで更新しようと思っていましたから、
かなり慌てました。

ここのブログからもリンクを貼っていたので、とりあえずリンクを消したり、
どこが 違反していたのか、かなり悩んだですよ!

fc2の方は、アダルトカテに登録していたので、なんで凍結になったのか?

ほとんど諦めていたのですが、今日19時頃だったかな。
友人のブログが復活していたので、
ダメ元で問い合わせしてみようと思い、
問い合わせ画面に行ってみたら・・・
こんなお知らせがこっそり書いてあったのです。↓
 ↓


なんじゃこれ?!
キャッシュの関係なのか、なんなのか、うちはその時点でまだ凍結解除にはなってませんでしたが。

それから30分後くらいに解除になって、普通に閲覧できるようになりました。
チャンチャン。。ヽ(`Д´)ノ

後でリンク貼り直さなきゃ・・・

先に『うそつき』の更新準備しにイってきます!


≦(._.)≧ ペコ




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2015年12月8日火曜日

R18BL短編『うそつき』(24)


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(24)


 「……本気じゃないです、西脇さんのこと。」


 それだけ言って、俺は俯いた。もう前を見ることができなくて。


「そう。」


 彼女の声は聞こえても、彼女が今、どんな表情をしているのか、分からない。


「じゃあ、今からここに、志芳を呼ぶね。」


 ―― なんで今更……。そう思うけど、俺には何も言う権利はない。


『男相手なら、妊娠の心配ないから、楽なんだって。』


 西脇さんにとって、俺はその程度の存在なんだから。

「もしもし…」と、彼女が通話をしている声だけが、耳に届いていた。



       *


 暫くして、誰かが息を切らして、俺達が座っているテーブルに来た。

 俺は、あれからずっと俯きっぱなしで、顔を上げることが出来ないけど、それが西脇さんだということくらいは分かる。


「どういう事だ。なんでここに千聖がいる?」


 慌ただしく椅子を引く音を立たせて、奥さんの隣に座った西脇さんが、そう言った。


「千聖くんに会いに行くって、私、今朝言ったはずよ。」


「会いに…って、顔だけ見にいくって事だったろう?」


 二人が言い合うのを、俺は俯いたまま訊いていた。―― 今更、どうでも良い話を。


「千聖くんにどうしても訊きたい事があったから会いにきたんだけど、正直に言ってくれたから、次はあなたにも確認しようと思って。」


 西脇さんの溜息が、微かに聞こえた。


「千聖くんは、志芳のこと、本気じゃなかったんだって。遊びだったんだって。」


 その言葉に、俺は俯いたまま膝の上で拳を握る。

 一拍おいて、「…… そうか。」と西脇さんが言った。


 ―― もう終わった…… そう思った。これで終わりだ、もう何も話は無いはずだ。


 なのに、彼女はもっと俺を、奈落の底に突き落とす。


「ねえ、志芳はどうなの?千聖くんのこと、本気なの?」


 ―― そんなこと、訊きたくないのに。


 答えは分かってる。だから、もう訊きたくないと、その場で耳を塞ぎたい衝動に駆られていた。


「…… ああ、俺も…… 本気じゃないよ。」



       *





続きます。。



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2015年12月7日月曜日

R18BL短編『うそつき』(23)


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(23)


 俺が口籠っていると、彼女は、「私達ね…、」と話し始めた。


「結婚して5年目なんだけど、やっとこうして新しい命を授かったの。」


 細くて、柔らかそうで、綺麗な手が、愛おしそうにお腹を撫でている。その左手の薬指に指輪が光っているのが見えた。


 ―― 西脇さんのと同じ…… 結婚指輪。


「本当はね、結婚する前に妊娠したことが分かって、それで…… 所謂、できちゃった婚だったんだけど。」


 その言葉に、俺はまた驚いて顔を上げた。


「それで結婚したのに、流産しちゃって…。やっとこうして待ちに待った赤ちゃんが、今お腹にいるのよ。」


 ―― そうだったんだ。そんな話、訊いていなかった。


 元々、奥さんのことや家の事を、なんでも俺に話すようなことはなかった。勝手に部屋に来て、一緒に食事をする時もあったけど、食べない時もあった。

 だけど、毎回、逢うたびに必ず…セックスはする。

 そうだった。ただそれだけの関係だってこと、分かっていたはずなのに。なのになんで、こんなに胸がズキズキしているのか。


「志芳が、バイだってことは、結婚前から知ってたの。だから男同士でそういうことをするのを、別に非難したりはしないし、ただの浮気なら、私、許せるの。」


 彼女は、「でも…、」と言って、そこで言葉を区切り、俺に目を合わせてきた。


「志芳は、ゴム使わないでしょう?嫌いだって理由で。勝手でしょ?だからできちゃった婚だったんだけど。」


 クスッと小さな笑い声を唇からこぼして、勝気そうな瞳が俺を見上げた。


「男相手なら、妊娠の心配ないから、楽なんだって。」


 ズキン…と、今までよりも大きく胸の奥が震えた気がした。痛くて、痛くて、どうしようもない。


「もしも貴方が本気だったら、申し訳ないと思って……。」


 と続けた彼女の声が、遠くなっていく錯覚がする。

 早く、こんなこと終わらせたい。そうしないと、俺の中の何かが壊れてしまいそうな気がしていた。


「…… じゃないです。」


 やっと出した声は、小さく掠れてしまう。

 彼女は、可愛く微笑んで、首を傾げて「……え?」と訊き返してきた。






続きます。。



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2015年12月6日日曜日

R18BL短編『うそつき』(22)


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(22)


  丸く大きなお腹以外は、細くて…小さくて可愛い人だ。だけど、俺を見つめる瞳は、意思の強い光を放っていた。


「…… あなたが、千聖くん?」


問われて、俺は小さく頷いた。


「ごめんなさいね、仕事中に電話したりして。どうぞ、座って。」


「いえ……、失礼します。」と、俺も軽く頭を下げて席に着いた。


 だけど、目の前に座っている人の顔を直視できなくて、俯き加減な俺のことを、その人はじっと見つめてくる。


「単刀直入に訊くね?…志芳と寝たの?」


「…… !」


 問われた言葉に、俺は思わず顔を上げた。あまりにも単刀直入過ぎて、俺は訊かれたことにどう答えたらいいのか分からなくて。


「…… いいえ……。」


 小さい声で、そう否定するしかなかった。


「いいのに、正直に言ってくれても。ホテルを使った時に、志芳はクレジットで支払いしてたのね。それで分かってしまったの。最初は否定してたけど、すぐに観念して本当のこと喋ったのよ。」


 彼女は、そう言って、オレンジジュースの入ったグラスを手にして、もう片方の手でお腹の上の方を摩っていた。

 その姿を直視できなくて、俺はまた視線を逸らしてしまう。

 ホテルのことがバレて、それで本当のことを言ったにしても、俺の名前もバイト先まで喋っちゃったのか?あの人は。


「腑に落ちないって顔してるね?志芳はね、私が問い詰めたら何でも喋ってくれるのよ。」


 結婚した時から、私には隠し事をしないことになってるからね。と、続けた。

 それは、二人の仲が揺るぎないということを、俺に分からせるために、そう言っているように聞こえた。


「じゃあ、質問を変えるね。千聖くんは、志芳のこと本気なの?」


「…… 俺…… は……、」


 ―― なんで躊躇してるんだ俺。はっきり本当のことを言えばいいのに、本気じゃないって。
 なのに、その言葉がなかなか出てこない。

 何度も言おうとするんだけど……、そうすれば、とりあえずこの場は簡単に終わるのに。

 なのに俺はその言葉をなかなか言えずにいた。








続きます。。



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2015年12月5日土曜日

R18BL短編『うそつき』(21)


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(21)



 バイトが終わって、俺は急いで外に出て、指定されたカフェに向かう。

 早く行かないとと、時間を気にしているけれど、そこに向かう足は重い。


 ―― 行きたくない。


 頭の中で、自分の声が響いていた。

 恐る恐る電話に出た俺に、受話器から聞こえてきた声は、やけに落ち着いた女の人の声だった。


『…… 西脇の家内です。と言えば、どういう用件かお分かりですよね。』


 ―― なんで、なんで、西脇さんの奥さんから直接電話が掛かってくるんだ?


 歩きながら頭の中でぐるぐると考えるけど、答えは見つからなかった。


 ―― まさか、西脇さんが浮気をしていると気付いて、探偵雇ったとか? 西脇さんは、この事を知っているんだろうか。


 バイト中だったから、連絡をする事も出来ず、終わってからも、急いで店を出てきたから、そんな余裕は無かった。


 ―― いや……、電話をしてみよう。


 そう思って、俺は歩きながら携帯を取り出した。呼び出し音は、5回鳴って留守電に切り替わる。


 ―― そうか、まだ仕事中のはずだ…… どうしよう……。


 徐々に不安が押し寄せてきて、胸が早鐘を打ち出した。

 だけど、そうしているうちに、目線の先に、指定された店のサインボードが見えてきてしまう。

 足が勝手に立ち止まりそうになるけれど、ここで帰ってしまっても、この不安が消えるわけじゃない。

 俺は意を決して、店内に足を踏み入れた。


 店の中は、この時間のわりには、空いていて、電話で教えてもらった服の色はすぐに見つけることができた。

 深い青のニットのワンピースは、少しゆったりしているけれど、妊婦の体型を隠せるほどではない。

 奥さんが妊娠しているなんて、西脇さんからは何も訊いていなかったから、驚いて立ち止まってしまった。

 俺の視線に気付いて、その人はゆっくりと立ち上がり、軽く会釈をする。





続きます。。



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2015年12月4日金曜日

R18BL短編『うそつき』(20)


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(20)



 だけど……、用意した食事は、独りでなんて食べる気がしなくて、結局無駄になるんだけど。

 だから、誕生日のバレンタインデーに温泉に一泊旅行なんて。

 しかも土日なんだから、期待なんて初めからしていなかった。

 こんな関係も、長く続くわけがない。また新しい誰かを見つけたら、そっちにいくに決まっている。恋人だなんて思っていないし、ましてや愛人てわけでもないんだ。

 西脇さんにとって俺なんて、ただの…… 暇潰しの相手でしかないんだ。

 そして、俺も、西脇さんのこと……。

 恋人じゃないから、別に苦しさとか、切なさなんて感じたりしない。

 だからこういう関係になっても、奥さんに悪いとか、後ろめたいとか、そういう感情は俺にはあまり無かったのかもしれない。



       *



 そう……、こんな関係、長続きするわけがない。

 近い未来には、終わるんだと理解していたし、それが悲しいなんて思っていなかった。

 でも、その日は、あまりにも突然訪れた。


「千聖くん、電話入ってるよ。」


 接客を終えて、お客様を見送った直後に、店長から声を掛けられた。


「電話?俺にですか?」


 店に私用の電話が掛かってくるなんてことは、ありえなかった。誰にもここでバイトをしていることを教えていなかったから。


「誰からですか?」


「西脇さんて人。」


 ―― え?


 西脇さんが店に電話してくるなんて、何かの間違いじゃないかと思った。

 取引先とアルバイトが、個人的に付き合っているなんてこと、知られないようにって、西脇さんはすごく気を遣っていたから。

 何かあったのかもしれないと、嫌な予感が頭を過る。だけど店長はニヤニヤしながら、俺の腕を軽く肘でつつく。


「女の人だよ。彼女?」


 その言葉に、頭が真っ白になった。

 女の人で西脇って、一人しか思い浮かばない。





続きます。。



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       *

2015年12月3日木曜日

R18BL短編『うそつき』(19)


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(19)


 別に、そんなこと期待していた訳じゃない。

 毎年、自分の誕生日なんて、自分でも忘れてる。憶えてくれているのは、親くらいなもんだ。


「いいじゃん、じゃあ、土、日で、泊まりがけで何処か行こうか。」


「―― は?」


 何いってんだ、この人。バレンタインデーに泊まりで何処か行くなんて、出来るわけないじゃないか。



「そうだな、温泉とか行かない?部屋に露天風呂があるところとか!」


「―― はぁ、そうですね。」


 適当に相槌を打つ俺の額に、西脇さんはまたキスをひとつ落とした。



       *



 別に期待なんてしていなかった。
 
 いつも逢う時は、俺の都合なんてお構いなしで、平日の夜にだけやってきて、泊まることも一度もなかった。

 必ず奥さんの待つ家に帰っていく。

 一度、嫌味のつもりで訊いたことがある。

『どんなに遅くなっても家に帰るなんて、西脇さんは奥さんのこと、よっぽど大切にしているんですね。』


『違うって、ただ、アイツ怒ると怖いからな。』


 ―― うそつき。


 そんな訳ないだろ? そりゃ、俺の前で、一番大切なのは奥さんだなんて、言えないだろうけど。

 だから、温泉なんて行けるわけがないんだ…と、俺は自分に言い聞かせた。

 だって、期待すればするほど、ダメだった時のがっかり感は半端ない。

 今までだって、たまに「今夜行く。」なんて勝手にメールしてくるから、俺は、バイトが終わったら速攻で上がって、帰りにスーパーに寄る。

 西脇さんが来るまでにと、急いで食事の支度をして待っていても、連絡もなしに、すっぽかされる事なんて、しょっちゅうだった。

 最初は、ここに来るまでに、車で事故ったんじゃないかとか、連絡取れるまで心配で眠ることもできなかった事もあったけど。

 今は、「またか……」と思うようにして、さっさと寝てしまう。





続きます。。



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2015年12月2日水曜日

R18BL短編『うそつき』(18)


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(18)


 フーッと吐き出した紫煙が、テレビ画面から放たれる光の中を漂っていた。


「部屋の中で吸わないでください。匂いが移ってしまう。」


「ごめん。」


 素直に謝って、すぐに灰皿に煙草を押し付けると、立ち上がってベッドへ近付いてくる。


「でも、そう言いながらもちゃんと灰皿を用意しておいてくれるんだから、千聖は優しいよな。」


 そう言って、屈むと俺の額に、リップ音を立ててキスを落とした。

 西脇さんは、俺がうとうとしていた間に、もう服をちゃんと着込んでいる。

 さっき座っていた、クッションソファーの横には、ハンガーに掛けてあったはずのコートが置かれていた。


「…… 帰るんですか。」


 質問に「うん。」と頷いて、「また来週くるよ。」と、当たり前のように言う。

 たまには泊まってくれれば良いのに…、なんて、決して口には出したくない言葉が胸を過る。


「そんな拗ねたような顔するなよ。帰り難くなるだろう?」


 そう言って、ベッドの縁に座って、肌に掛けていた毛布ごと俺の身体を抱き寄せた。


「な、何がですか?なんで俺が拗ねるんですか。」


 心の内で考えたことを、顔に出したりなんて、絶対してない自信はあるのに、決まってそう言われる。

 きっと、こういうシチュにも慣れているからなんだと、思った。


「そうだ、千聖って誕生日いつ?」


 不意に訊かれた質問に、俺は一瞬答えることを躊躇した。

 だって、絶対笑われる。


「…… 二月十四日ですけど……。」


「マジで?」


 ほらね。西脇さんは、目を丸くして、口元に手を当てて、笑うのを我慢しているように見えた。


「笑いたければ、笑ってくれて良いですよ。」


 バレンタインデーが誕生日なんて、ネタにされるだけだって、今までの経験から諦めてる。

 だけど西脇さんは、驚いた表情はしたけれど、笑ったりしなかった。


「なんで笑うの。凄いじゃん、絶対忘れたりしないよ。」


 そう言いながら、西脇さんはローチェストに置いてあるカレンダーに手を伸ばした。


「二月十四日って、土曜日か……。」


―― ああ、土曜日になんて、逢えるわけないよね。






続きます。。



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2015年12月1日火曜日

R18BL短編『うそつき』(17)


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(17)


「俺も……、西脇さんが…… すき。」


 すき……なら、言える。

 すきって言葉には、色んな意味があるから。


「ねえ、好きじゃなくて愛してるって言って欲しいんだけど。」


 愛してるなんて、俺は、西脇さんみたいに嘘を上手く吐けないから。


「せめてさ、名字じゃなくて、名前で呼んでくれない?志芳って。」


「…… 嫌です。」


 名前でなんて呼ぶもんか。何故か頑なにそう決めていた。

 プイっと横を向くと、クスッと笑い声が聞こえて、頬に唇を押し当ててくる。


「本当可愛い。千聖って俺の癒やしだな。」


「やめてください、可愛いなんて…。」


 そんな事を言われても、嬉しい訳がないのに、顔が赤くなったのを見られたくなくて、 視線から逃れたくて、背を向ければ、背後から抱きしめられる。

 背中に感じる肌が熱い。


「仕事で嫌なことがあっても、お前に逢えば忘れられる。もっと頑張ろうと思える。」


 そう言って、後ろから俺の肩口に顔を埋めて、「千聖は、俺のやり甲斐だな。」と呟く。

 それはいつもの同じ台詞で、きっと誰にでも同じことを言ってるんだと思う。

 いつだって自分勝手で、強引…… で、


 ―― うそつきだった。


       *


 余韻が残る身体は、なかなか起き上がる気にもなれなくて、夢と現実の狭間を行ったり来たりしていると、ふわりと、煙草の香りが漂ってくる。

 目を開けると、隣には西脇さんの姿はなくて、シーツにも温もりは残っていない。

 テレビの画面から放たれる光が、薄暗い部屋を照らしている。

 流れてくる音は、ベッドに寝ている俺には、内容が全く分からないほどに、小さく絞られていた。

 西脇さんは、部屋の中央に置いてある小さなローテブルの前で、クッションソファーに、体操座りにような形で座っていた。

 膝頭に肘を置き、指に挟んだ煙草を口元に運びかけて、上半身を起こした俺に気付いたのか、視線を此方へ向けてきた。


「あ、目が醒めた?」


 そう言って、吸った煙草の先が、暗がりで明るく灯る。






続きます。。



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