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2017年5月17日水曜日

『出逢えた幸せ』第二章:迷う心とタバコ味の……(23)


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第二章:迷う心とタバコ味の……(23)



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 しかし……。


「俺、こんな格好で外出るの嫌だ……」

「諦めるんだな、何言っても許してもらえる筈はないからな」


 啓太が他人事のように言う。 そりゃ、他人事だよな。 俺、こんなだったら、昨年の買い物のお供の方がよっぽどいいよ。


「メイクもばっちりだし、歩いてたらナンパされるかもね。くれぐれも、知らない人に付いて行っちゃだめよ」


 そう思うなら、この格好で帰らせるの、止めてください、テルさん。


「じゃ、また帰ってこいよ、風邪とか引かないようにな」


 父さーん、言う事それだけですかーーー!


「ちゃんと、家に入る前に写メ送らないと、もう一度罰ゲームやり直すからね」


 姉ちゃん…… 鬼だろ、鬼。


 俺は、屈辱的な格好で、渋々実家を後にする。

 ワンピースの上に、着てきた自前のグレーのダッフルコートが、チグハグな気がするけど、少しでもワンピースを隠せるから、よしとしよう。

 バス停でバスを待つ間、スカートの下から入ってくる風が冷たくて……。


「女の子って、こんなの着て寒くないのかなぁ。」


 バスが駅に着いたのは、4時半過ぎ。

 透さんとの待ち合わせにはまだ早い。 早めに着くように家を出たのは、駅のトイレかどこかで、着替えようと思ったから。

 さすがにこのままで透さんに会うのは、嫌すぎる。
 …… と、思ったのに……。

 駅のロータリーに停まっている、見覚えのあるダークブルーの車。
 あれ…… まさか…… と、思った瞬間、車のドアが開いた。

 
 ―― げっ! 透さん!


 車から降りてきたのは、紛れもなく透さん。
 距離は、10メートル以上ある。 女装なんてしてるんだから、いくらなんでも俺だと気が付くはずはない……。

 そう思ったのに、なぜだか、透さんの視線は、一直線に俺の方を見てる!
 なんで? なんでだ? 俺だって分かってるのか……、それとも……、女の子だと思ってまさかのナンパ?

 あはははは…… まさかね……。

 もう頭ん中ぐちゃぐちゃで、内心めっちゃ焦ってる俺の方へと、透さんはゆっくりと、距離を縮めてくる。
 咄嗟に知らないふりをして、逃げようと思ったのに……


「直くん?」


 名前を呼ばれて、固まってしまった。
 う……っ、いくら何でも、透さんにだけは見られたくなかった。


「…… 直くんだよね?」


 思い切り不思議そうな顔をしている透さん。


「…… はい、直です」


 もう逃げる事も出来そうにもなくて、諦めて応えるけど、恥ずかしさで耳まで熱い。


「あの……、どうしてこんな格好を?」


 透さんが、少し屈んで俺の顔を覗きこむ。

 そ、そんな近くで見ないでー!


「えと、その…… 説明するから、車に乗ってもいい?」


 周りの目が気になるのと、スカートの下に吹き込んでくる風が冷たくて、もう透さんに見られてしまった今となっては、一秒でも早く、車に乗り込みたかった。


「そうだね、寒そうだし、早く車に行こう」


 クスッと笑いながら、透さんが俺の肩を抱き寄せて歩き出した。


「どこから、どう見ても女の子に見えるよ」

「そ…… そうかな、でもよく俺だとすぐに分かりましたね?」

「そりゃね、最初はまさかと思ったけど、直くんの顔を見間違う筈ないし。声をかけた時にはもう、直くんだと確信していたよ」

「そうですか……」


 助手席側のドアを開けて、「どうぞ、お嬢様」と、ふざけてエスコートする透さん。


「う、やめてください」と、苦笑いするしかない俺。


 でも、助手席に座ると、車の中は暖かくて、他人からの視線も気にならなくなって、やっとホッとすることができた。






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