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2017年5月18日木曜日

『出逢えた幸せ』第二章:迷う心とタバコ味の……(24)


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第二章:迷う心とタバコ味の……(24)



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 ホッとしたのも束の間、運転席に乗り込んだ透さんの視線が痛い。


「ごめんね。折角、直くんが可愛い格好してくれてるのに、あんまり時間が無いんだよ」


 電話でもあまり時間が取れないみたいなこと言ってたな。でも、正月もまだ2日目なのに。


「なんか、忙しそうですね?仕事で?」


「いや、うん、仕事の事もあるけど、家で色々とあってね。 だから、実家とマンションを行ったり来たりで、あまりお正月な感じじゃないんだよ」

 と、話す透さんの横顔は、そう言えば疲れているように見えなくもなかった。


「そうなんだ、忙しいのに俺、こんな所まで迎えに来させてしまって……」


 透さんの疲れた顔を見ていたら、少しでも時間が空いたんなら、こんな遠くまで俺を迎えに来るよりも、身体を休ませた方が良かったんじゃないかと、心配になった。


「そんな事、気にしなくて良いよ。 俺が直くんに逢いたくて、電話したんだから」


 優しく甘い声でそう言われると、なんだか くすぐったい気持ちになってしまう。


「とりあえず、直くんのマンション方面に向かうね」


 エンジンをかけながら、透さんはそう言って、視線をこちらに向ける。


「はい」


 斜め45度の角度で目が合って、柔らかく微笑む透さんに、なんだかドキドキしながら返事をした。

 透さんは運転しながら、俺が何故こんな格好をしているのかという、悲劇の理由を笑いながら訊いてくれた。


「ひどい話でしょ?」

「あはは、面白いね、直くんの家族は」


 本当に楽しそうに笑ってくれてるから、いいんだけど……。


「でも、こんな格好のまま、マジで外に出されるとは思わなくて、本当は透さんとの待ち合わせ時間までに、トイレで着替えようと思ってたら、もう既に透さんがロータリーにいたから、びっくりした」

「それは、早めに着いてて良かったな」


 運転しながら、透さんの左手が伸びてきて、胸の辺りで揺れているウイッグに指を絡めた。


「早く着いてなかったら、こんなに可愛い直くんを見るチャンスを逃すとこだった」

「…… 可愛いだなんて……」


 俺はこんな格好、見られたくなかったのに。


「似合ってるよ、すごく。 知らない人が見たら、きっと男だとは気が付かないだろうね」


 ウイッグから手が離れていって、ハンドルを両手で握り直す透さんの横顔は、なんだか嬉しそうに微笑んでいた。


 正月だからか、道は思ったよりも空いていて、スムーズに流れていた。
 この分だと予定よりも早く俺のマンションに着きそうだなー、なんて考えていると、


「直くん、お腹空いてる?」と、透さんが訊いてきた。


 今日は、起きてからお節とかをちょこちょこつまんだり、お雑煮や、あと焼き餅とかも食べていて、あまりお腹は空いていないけど。


「俺、あんまりお腹は空いてないんだけど……、透さんは?」

「俺も、まだあまり空いてないんだよね」


 正月って、家にいると、いつも何か食べてるよね、なんて会話をしていると、


「そうだ、ちょっとだけ寄り道してもいい?」と、透さんは、何か閃いたようにそう言って、ちらりとこちらに視線をよこす。


「寄り道? うん、いいよ。透さんは時間大丈夫なの?」


 時間があまり無いって言ってたから、少しだけ気になった。 俺としては、このまま自分の部屋に帰るより、もう少し一緒に居たかったけど。


「うん、まだ大丈夫。じゃ、ちょっとだけ寄り道しようか」


 そう言うと、右のウインカーを出して、車線を変更して、右折ラインに入って行く。


「どこ行くの?」


 寄り道って訊いて、少しわくわくする。


「んー、気に入ってもらえるか分からないけど、まだ内緒」


 そう言いながら、俺の方をチラっと見て微笑む顔がまた色っぽい。本人は無自覚なのかもしれないけど。

 俺は透さんが時折見せる色っぽい顔に、いちいちドキドキしてしまう。










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