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2017年6月16日金曜日

『出逢えた幸せ』第二章:迷う心とタバコ味の……(44)

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第二章:迷う心とタバコ味の……(44)



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「…… あのう……」

「ん?」


 今、俺の目の前には、色んな部屋の写真がパネルになって並んでいる。


「直は、どの部屋がいい?」


 紫煙をくゆらせながら、部屋のパネルを真剣に見つめている、お兄さん。


「いや、あの……」


 —— どの部屋がいいって言われても…… ね。

 そう…、桜川先輩のお兄さんが連れて来てくれたのは、所謂ラブホテルだった。


「もう我慢できないんでしょう?」


 —— それはそうだけど……。


「ここだったら、ゆっくり出来るし」


 —— な、何をですかっ。


「ああ、もう、取り敢えず行こう」


 お兄さんは、パネルの横に置いてある灰皿に煙草を揉み消すと、適当に部屋を選んで、俺の手首を掴んで歩き出す。

 もう抵抗する気力もなく、とにかく部屋に入ったらトイレに篭ろうと思っていた。


 ドアを開けて、お兄さんに背中を軽く押されて、先に部屋の中へ入って行く。

 目指すはトイレ。

 部屋を見渡し、トイレとバスルームに続いているだろう扉に向かおうとしたところで、後から腕を引かれて振り向かされてしまった。


「どこに行くつもり?」

「へ? …… あ、あの、トイレへ……」

「トイレで何するつもりなの」


 何って、ナニだよ! って言いたいところだけど、そんなこと言えなくて俯いてしまう俺。


「こんな場所に来て、一人でする事ないでしょ?」


 お兄さんの言葉は、俺がただ単に、トイレで用を足すことが目的でないことは知ってると、言っているようで……。

 ま……、そりゃそうだよね……。

 でも、一人でするしか無いと、俺は思うんだけど!


「薬、飲まされてるんでしょ? 大丈夫、俺がちゃんとしてあげるから」

「へ?」


 —— 俺がちゃんとしてあげるから…… ?


 すぐには、その意味を頭で理解できないでいると、お兄さんの両手が俺の頬を包んで、顔を上げさせられた。

 その時、初めてお兄さんの顔をちゃんと見た気がする。

 少しクセのある長い髪を後ろに無造作にまとめていて、俺を見つめる瞳は少し茶色がかってる。 桜川先輩にそっくりの切れ長の目。

 少しふっくらとした唇と、しっとりとした表情は、桜川先輩よりも落ち着いた大人に感じた。


「直、可愛いね」


 クスッと笑いながらそう言うと、惚けてうっすら開けていた俺の唇に、お兄さんの唇が重なる。

 驚きで目を開けたままの俺は、至近距離で見つめられて、金縛りに合ったみたいに固まってしまってる。

 ほんのりと漂っているのは、コロンの香りかな。 いい匂いだな……。

 難なく唇を割り入ってきた舌は、すっかり抵抗を忘れた俺の舌を絡めとる。

 ほろ苦い…… タバコの味がした。






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