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2017年9月16日土曜日

『出逢えた幸せ』第三章:身体と愛と涙味の……(13)

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第三章:身体と愛と涙味の……(13)



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 でも、ここで悩んでいても仕方がないし……。 俺はシャツの裾を押さえながらリビングに向かった。

 ドアを少し開けて、顔だけ部屋の中を覗きこむと、魚を焼く香ばしい匂いが漂ってくる。
 途端に、朝から何も食べていない事を思い出して、急激に空腹を感じた。


「お、さっぱりしたか? もうすぐ出来るから、座って待ってなよ」


 キッチンから顔を出してみっきーはそう言ってくれるんだけど…… 俺はシャツの下がスースーするのを何とかしたいんだ。


「あ、あの、下着が無いんですけど……、あと良ければズボンも何か貸してもらえれば……」


「なんでー? いらないじゃん、どうせ脱ぐし」


 どうせ脱ぐって、どういう事だよ!


「いや、脱がないからっ」


 慌てて叫ぶ俺の顔を見て、みっきーが声をあげて笑い出した。


「あはは、顔真っ赤にして何を勘違いしてるの? 薬塗るからって意味なんだけど?」


 出来上がった料理をテーブルに運びながら、悪戯っぽい目線を送ってくる。 テーブルの上には、焼き魚の他にも、ほうれん草のおひたし、ひじきの煮物とか、美味しそうな和惣菜が並んでる。


「先に、薬塗ろうか」


 美味しそうな料理に気を取られていたら、いつの間にか背後に立ったみっきーに、ふいに後ろから抱きしめられて、驚いて体が跳ねてしまった。


「ちょ、なに……」

「しかし、いいねぇ、彼シャツ♪」


 嬉しそうに声を弾ませて、シャツの裾から滑り込んできた手が、案の定俺の半身を握ってくる。


「ちょっ、」


 逃げようとする俺を引き寄せて、もう一方の手がシャツの上から胸の尖りを軽く摘む。


「う~~ん、いい匂い」


 項に顔を埋めて、犬みたいにクンクンしてるし。


「や、やめッ、くすりッ塗ってくれるんでしょ?」


 腕から逃れようと身を捩りながら後ろを振り向けば、みっきーはポケットから何故か眼鏡を取り出した。


「じゃあ、診察しましょうか」


 なんか怪しいセリフを言いながら、掛けた眼鏡の中心を、中指で押し上げてニヤリと笑ってんだけど!


 —— お医者さんごっこでもするつもりなのか?!


「どこの藪医者だよ……」


 思わず、声に出して言ってしまったけど、みっきーはそれも楽しむように笑っている。


「ひどいなぁー、これでも本当に医者なんだよ? さ、そこのソファーで四つん這いになって、お尻を先生に見せてくれるかな?」

「ちょ、医者じゃないでしょー? バーのマスターでしょ?」


 そう言って嫌がりながらも、なんか俺、ちょっと笑ってしまった。 ホントにこの人、どこまで本気なのか冗談なのか分からなくなってくる。

 結局、みっきーに引き摺られて、俺はソファーの上で四つん這いとか、恥ずかしい姿勢をとらされてるんだけど。


「ある時は、バーのマスター、ある時は藪医者、さてその正体はいったい……。 なんだと思う?」


 おどけながら、俺の尻を辛うじて隠しているシャツを捲り上げる、みっきー。


「ただのエロ魔人だろっ?」


 本当に薬を塗る為なのかと不安になってくるし、こんな明るい部屋で尻を見られるのって、思った以上に恥ずかしい。 思わずみっきーの手を払い退け、捲られたシャツを元に戻して、俺はソファーの上で正座した。


「医者とか信じられないし、やっぱ、ヤダ」

「もう、困った患者さんだな。マジだよ、本当に医師免許は持ってるよ、内科専門だけど?」

「うそ……」

「でも、仕事はバーのマスターだったり、ああ…因みに、あのバーの入ってるビルのオーナーでもあり、あのビルの中に入ってる輸入雑貨屋の店主でもある」

「え?」


 あのバーが入っているビルは、かなり立地条件の良い場所にあって、地価だけでもすげえと思うんだけど……、ビルのオーナー?


「みっきーって、凄いんだね」

「いや、俺が凄いんじゃなくて、じーちゃんが凄いの」






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