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2015年12月8日火曜日
R18BL短編『うそつき』(24)
はじめて読む方は、こちらから。
(24)
「……本気じゃないです、西脇さんのこと。」
それだけ言って、俺は俯いた。もう前を見ることができなくて。
「そう。」
彼女の声は聞こえても、彼女が今、どんな表情をしているのか、分からない。
「じゃあ、今からここに、志芳を呼ぶね。」
―― なんで今更……。そう思うけど、俺には何も言う権利はない。
『男相手なら、妊娠の心配ないから、楽なんだって。』
西脇さんにとって、俺はその程度の存在なんだから。
「もしもし…」と、彼女が通話をしている声だけが、耳に届いていた。
*
暫くして、誰かが息を切らして、俺達が座っているテーブルに来た。
俺は、あれからずっと俯きっぱなしで、顔を上げることが出来ないけど、それが西脇さんだということくらいは分かる。
「どういう事だ。なんでここに千聖がいる?」
慌ただしく椅子を引く音を立たせて、奥さんの隣に座った西脇さんが、そう言った。
「千聖くんに会いに行くって、私、今朝言ったはずよ。」
「会いに…って、顔だけ見にいくって事だったろう?」
二人が言い合うのを、俺は俯いたまま訊いていた。―― 今更、どうでも良い話を。
「千聖くんにどうしても訊きたい事があったから会いにきたんだけど、正直に言ってくれたから、次はあなたにも確認しようと思って。」
西脇さんの溜息が、微かに聞こえた。
「千聖くんは、志芳のこと、本気じゃなかったんだって。遊びだったんだって。」
その言葉に、俺は俯いたまま膝の上で拳を握る。
一拍おいて、「…… そうか。」と西脇さんが言った。
―― もう終わった…… そう思った。これで終わりだ、もう何も話は無いはずだ。
なのに、彼女はもっと俺を、奈落の底に突き落とす。
「ねえ、志芳はどうなの?千聖くんのこと、本気なの?」
―― そんなこと、訊きたくないのに。
答えは分かってる。だから、もう訊きたくないと、その場で耳を塞ぎたい衝動に駆られていた。
「…… ああ、俺も…… 本気じゃないよ。」
*
続きます。。
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