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2015年12月7日月曜日

R18BL短編『うそつき』(23)


はじめて読む方は、こちらから。




(23)


 俺が口籠っていると、彼女は、「私達ね…、」と話し始めた。


「結婚して5年目なんだけど、やっとこうして新しい命を授かったの。」


 細くて、柔らかそうで、綺麗な手が、愛おしそうにお腹を撫でている。その左手の薬指に指輪が光っているのが見えた。


 ―― 西脇さんのと同じ…… 結婚指輪。


「本当はね、結婚する前に妊娠したことが分かって、それで…… 所謂、できちゃった婚だったんだけど。」


 その言葉に、俺はまた驚いて顔を上げた。


「それで結婚したのに、流産しちゃって…。やっとこうして待ちに待った赤ちゃんが、今お腹にいるのよ。」


 ―― そうだったんだ。そんな話、訊いていなかった。


 元々、奥さんのことや家の事を、なんでも俺に話すようなことはなかった。勝手に部屋に来て、一緒に食事をする時もあったけど、食べない時もあった。

 だけど、毎回、逢うたびに必ず…セックスはする。

 そうだった。ただそれだけの関係だってこと、分かっていたはずなのに。なのになんで、こんなに胸がズキズキしているのか。


「志芳が、バイだってことは、結婚前から知ってたの。だから男同士でそういうことをするのを、別に非難したりはしないし、ただの浮気なら、私、許せるの。」


 彼女は、「でも…、」と言って、そこで言葉を区切り、俺に目を合わせてきた。


「志芳は、ゴム使わないでしょう?嫌いだって理由で。勝手でしょ?だからできちゃった婚だったんだけど。」


 クスッと小さな笑い声を唇からこぼして、勝気そうな瞳が俺を見上げた。


「男相手なら、妊娠の心配ないから、楽なんだって。」


 ズキン…と、今までよりも大きく胸の奥が震えた気がした。痛くて、痛くて、どうしようもない。


「もしも貴方が本気だったら、申し訳ないと思って……。」


 と続けた彼女の声が、遠くなっていく錯覚がする。

 早く、こんなこと終わらせたい。そうしないと、俺の中の何かが壊れてしまいそうな気がしていた。


「…… じゃないです。」


 やっと出した声は、小さく掠れてしまう。

 彼女は、可愛く微笑んで、首を傾げて「……え?」と訊き返してきた。






続きます。。



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